No One Can Hear You Scream

「パナマ文書」によると毎年ニホンから60兆円ベースのカネが租税回避地に流れるという。

ちなみにバイトで食いつなぐ年収200万円以下のワーキングプアは、年金、国保、市民税、所得税などにより、実に所得の60％が徴収されるシステムであり、つまるところ富裕層の資産形成のため下層国民がさらに犠牲になるという構図なのである。

構造改革を起点に貧困という構造的暴力が席巻して久しいのだが、それは一過的な時代現象ではなく常態化した国家病理と言えるだろう。

現実としてかつての中産階級の女性が3000円程度のカネで身体を売るという第三世界の荒廃が露出しているのだ。購買力平価（物価換算でのカネの価値）からすれば今や日本女性は世界最安値なのであり、そしてそれが論壇のナショナリスト達が絶叫する＜美しい国＞の現実であり、あらためてこのような者たちは資本に阿る正真正銘の人間のクズなのである。

もっとも「パナマ文書」を公開した当の米国でも、モルガンスタンレーなどを筆頭とする上位100社だけでタックスヘイブンに2000を超えるペーパー法人を擁するという欺瞞であり、このような様式はもはや国民国家が多国籍企業に植民地化された「世界的同質化」なのだ。

このようなデータを開示する事情も欧州系のタックスヘイブンに分散したマネーを、自国領域のそれに一挙集約するという狙いであり、グローバル金融による「メトロポリスとサテライト（宗主国が属国のカネを集める構想）」の再編プロジェクトに過ぎないのだ。

これらのアングラマネーに東京都の法人税率を適用すると仮定すれば、国税50%にも相当する20数兆円の財源が確保できる試算である。このカネを積立すれば原発事故にかかわる避難や賠償や医療などの原資とすることも可能だったのだろう。そのような視点からすれば、今在る数千万の生命と、未来に在る数億の生命が、特権者による社会資本の寡占によって破壊されたのである。

レッセフェール（過激搾取主義）の最も恐ろしいことはそのような中長期的な国家展望ではなく、投資家の爆発的な短期利潤を目的化することであり、アナルシー（政府機能の停止状態）によって国民財産を「徴用」するという構想それ自体なのである。つまり我々は民衆を擁護し外敵から守る自国の＜政府＞を全く持たないのだ。

租税回避に狂奔する法人群はすでに判明しているのだが、それらは財閥グループやメガバンクなど国家議会を所有する者たちであり、まして電通などマスメディアを監督する機関すら名を連ねているのだから、代表議員がこれを国政の俎上に載せることもなく、新聞テレビがそのような制度犯罪を報じることもないというわけだ。

経団連グループ（多国籍企業連合）の内部留保は本年度中600兆円に達する見込みなのだが、繰り返し論述するとおりこのような滞化マネーは奴隷法（派遣法改正）の果実であり、そのうえ外国資本はさらに租税回避と優遇税制と補助金給付など、実に70パターンにも及ぶ特権的措置を付与され空前の利回りを確定しているのである。

それはつまり「グローバリストは遊牧民のように国家を新たに作るのではなく既に存在する国家機能を乗っ取る」という論理のとおり、「多国籍企業という征服王朝」は議会や司法や行政や報道や軍隊などのシステムを＜解体＞するのではなく＜継承＞するのであり、全てがあたかも自国の意思決定に拠る瑕疵であるかの如く錯覚させるのだ。

それは「国家議会も司法機関も新聞テレビもエイリアンに乗っ取られた。資源は奪われ、人間は食糧にされる」と絶叫するに等しく、どのように傍証を挙げ論理的に説明したところで狂人扱いされるのがオチであり、覚醒した貴方と常識を信仰する他者との間には絶望的な共訳不可能性の壁が立ちはだかり、すでに我々は「B級SF映画的ホラー」とでもいうべき日常に存しているのだろう。

かつてマルクスはアジア社会の成員がハビトゥス（共同体特有の服従的な価値規範）に則り、自律的思考や論理的考察を放棄し奴隷的に振る舞う様相を分析し、専制者はただイリュージョンを創出するだけで暴力を行使することなく支配を絶対化するという「全般的隷従制度」を提唱したのだ。

しかし我々の体系においてはそのような傾向がメディアや公共教育によって普遍化されているのであり、国家資本が外国に奪われ滅亡するという超現実を突き付けられながら、未だ民衆は「人間学の眠り（哲学や思考を放棄した状態）」に堕ちているのであり、このような専制のアウトノモス（固有秩序の構造）など永劫に知り得ないのだ。